大阪地方裁判所 昭和44年(行ク)12号 決定 1969年5月31日
申立人
森本英樹
申立人
竹内省三
申立人
尾花二郎
申立人
板橋隆久
右申立人四名代理人
樺嶋正法
被申立人大阪大学長代行
山本巌
被申立人
国
右代表者法務大臣
西郷吉之助
右被申立人両名代理人
川本権祐
ほか五名
申立人等は被申立人等を被告として当裁判所に大学構内立入禁止処分取消の訴(昭和四四年(行ウ)第四八号事件)を提起し、且つ執行停止を申立てた。よつて、当裁判所はつぎのとおり決定する。
主文
本件申立をいずれも却下する。
申立費用は申立人等の負担とする。
理由
一、本件における申立人等の申立の趣旨・原因は別紙(一)のとおりであり、被申立人等の意見は別紙(二)のとおりである。
疎明として、申立人等は<証拠>を提出し、被申立人等は<証拠>を提出した。
二、申立人森本英樹の申立について
申立人は、本件本案訴訟で、「被申立人等が申立人を含めた学生に対し昭和四四年五月二四日付でなした――学生諸君へ「不測の危険混乱を避けるため五月二四日一四時以降学生の構内立入りを一切禁止します。学生諸君は退去して下さい。」総長代行山本巌――という大阪大学石橋学舎についてなした処分を取消す。」との判決を求めており、申立人は大阪大学助教授であるというのである。
そうすれば、申立人が本案訴訟で被申立人等の行政処分であると主張して取消を求めているものは、大阪大学の学生を相手方としているものであり、同大学の助教授たる申立人がここに含まれていないことは明らかである。そして、右措置の相手方とされていない申立人がなお前記のような行政処分取消の本案訴訟を提起しうべき法律上の利益(行政事件訴訟法第九条)についてはこれを首肯するに足る主張も疎明も存しないのであるから、申立人の右本案訴訟は原告適格を欠く不適法なものといわなければならない。
そして、行政事件訴訟法に基づいて執行停止を申立てるには本案訴訟が裁判所に提起されていることを要し(同法第二五条第二項)、その本案訴訟は当事者適格その他の訴訟要件を具備する適法な訴として裁判所に係属していることを要するものと解するのが相当であるから、申立人の本件申立はこの点において申立の要件を欠く不適法なものとして却下すべきである。
三、申立人竹内省三、同尾花二郎、同板橋隆久の申立について
(一) 被申立人国に対する申立について
申立人等は、本件本案訴訟で、前記二、に記載のような行政処分取消の訴を提起し、被申立人国を被告としている。
しかしながら、行政処分取消の訴は処分をした行政庁を被告として提起しなければならないのであり(行政事件訴訟法第一一条第一項)、行政主体たる国を被告として提起することはできないものと定められているのであるから、申立人等の右本案訴訟は被告適格を欠く不適法なものといわなければならない。
そうすれば、前記二、に判示するところと同一の理由によつて、申立人等の本件申立は申立の要件を欠く不適法なものとして却下すべきである。
(二) 被申立人大阪大学長代行山本巌に対する申立について
(1) 被申立人は、本件申立の本案訴訟が大阪大学(いわゆる官署であつて行政庁ではない。)を被告として提起されているから被告適格を欠き不適法であると主張する。
いかにも、右本案訴訟の訴状を見れば、その当事者欄には「被告」として、「大阪大学、右代表者総長事務取扱山本巌」と表示されているからこの記載だけを見ると被申立人の右主張も尤ものようであるが、他方、更に右訴状の請求の趣旨及び原因の項を含めてその全体を総合して見れば、申立人等は右本案訴訟で、大阪大学長代行山本厳が前記二、に記載の処分をしたとして、同人を被告として右処分の取消を求めているものであることが明らかであり、当事者欄で前記のように表示したのは「大阪大学長代行山本巌」と表示すべきものと誤記したものと認められるから、この点に関する被申立人の主張は採用できない。
(2) ところで、行政事件訴訟法に基づいて執行停止をするには処分の執行により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がなければならず(同法第二五条第二項)、申立人等は本案判決をもつてしては多大の回復し難い損害を蒙ると主張するけれども、その事実を疎明するに足る資料はない。
もつとも申立人等が大阪大学大学院生であり、被申立人大阪大学長代行山本巌が前記二、に記載の措置をとつたことは被申立人において明らかに争わないところであるから、この事実によれば、右立入禁止の措置により申立人等が大学院々生として爾後大阪大学石橋学舎構内の営造物を利用することができない結果になることは明らかであるが、<証拠>によれば、別紙(二)の理由欄二、(学内紛争の経過)(一)(二)項記載の事実及び同四、の(一)の第五項(物的施設の破壊状態)記載の各事実が一応疎明されるのであつて、右立入禁止の措置は、大学営造物の利用ができないようにすると言うよりも、むしろ、当時既に大学営造物の正常な利用が事実上不可能となつていた異常な状況下において、直面する混乱と人命の危険を避け、施設の破壊を復旧して、申立人等を含む大学関係者の営造物の正常な利用が可能となるようその回復維持のためにとられた緊急暫定的な措置というべきものであるから、これをもつて申立人等が回復し難い損害を蒙るおそれがあるとは認められない。
よつて、申立人等の本件申立は、その申立の要件を欠く失当なものとして却下すべきである。
四、以上の次第であるから、本件申立をいずれも却下することとし、申立費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項に従い、主文のとおり決定した。(井上三郎 藤井俊彦 大谷種臣)
<別紙一>
強制執行停止申立書
申請人 森本英樹
(大阪大学助教授)
同 竹内省三
(大阪大学大学院生)
同 尾花二郎
(大阪大学大学院生)
同 板橋隆久
(大阪大学大学院生)
右代理人弁護士 樺嶋正法
被申請人 大阪大学
右代表者総長事務取扱 山本巌
同 国
右代表者法務大臣 西郷吉之助
申請の趣旨
一、被申請人が申請人を含めた学生に対し、昭和四四年五月二四日付でなした後記記載の大阪大学、石橋学舎(豊中市待兼山町一の一)についてなした処分を取消す。
一、被申請人の右処分は本案判決が確定するまでこれを停止する。
との裁判を求める。
記
学生諸君へ「不測の危険、混乱を避けるため、五月二四日一四時以降、学生の構内立入りを一切禁止します。学生諸君は退去して下さい。」
昭和四四年五月二四日
総長代行 山本巌
申請の理由
一、被申請人たる大阪大学は、各学部の教授会から選出された評議会によりその議決するところに従つて運営されている。(国立大学の評議会に関する暫定措置を定める規則)
総長代行たる山本巌は申請の趣旨記載の告示を、右評議会の何らの決定を得ずして作成公表し、それに基づき、数百名の機動隊に出動要請を行ない、学生(教養、専門、大学院を含む)諸君の学内立入りを不当にも阻止している。
このことは、その内容を問う以前に完全に手続的に無効なものである。
二、右の点をともかくとして、大阪大学通則においては、第六条に休業についての定めがあるのみであり、大学の業務停止はおろか、学生の立入りを阻止することの定めはどこにも見当らないのである。
その点においても違法、無効である。
三、以上の点をともかくとしても大学、総長代行の本件の告示は何を理由とするのか。
正当な学生諸君の自治会活動防止のためか。
学生諸君の学内封鎖を未然に防止するためか。
総長代行は、その「声明文」において告示の内容を説明し、石橋学舎一体を「特別紛争地域」と指定し、そこへの学生の立入を禁止し、立入つたものの退去を要求している。
その理由はまことに抽象的な「人命の危険」としている。右総長の処分は恐らく、大学に対する施設管理権を理由とするのであろうが、総長の独断によつてそれをなしうるとの法的根拠はない。
大学の管理は、学生を含めた全大学の人間によつてなすのが根本条理であり、それに反する取扱いは明文の定めある場合に限つてなしうるものと解すべきである。
四、以上、学長の処分は、何の法的根拠もなく、無効なものであるから、即ちにその取消を求める。
五、我々は、全学生を、否全大学の人間を代表して(法的な意味ではないが)この不当なる処分によつて、多大の苦痛、損害を蒙つている。
その例を二、三挙げる。
(一)大学院の研究の中断、(二)正当な自治活動である学生集会がひらけない。(三)学生の研究、サークル活動の阻害、(四)大学の周りの機動隊がガス銃を所持しており、学生に非難されて、研究者は正常な研究活動をすることができない。
六、ちなみに、総長代行の「人命の危険」という論理は極めてナンセンスである。人命の危険を増大、発生するのは、そのような処分及びそれによる機動隊導入のためなのであり、総長はその点を全く故意に無視している。
七、よつて、すみやかに本件処分を取り消し、機動隊の退去することを求める。
昭和四四年五月二六日
右代理人弁護士 樺嶋正法
追補
以上の理由により、総長代行の処分の取消を申立てるのであるが、本案判決を以つてしては、申請人は多大の回復し難い損害を蒙るので、右処分の本案判決に至るまで執行停止決定を申立てる。
<別紙二>
申立人 森本英樹
外三名
被申立人 大阪大学
外一名
昭和四四年五月二九日
被申立人指定代理人 川本権祐
ほか五名
意見書
意見の趣旨
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
との裁判を求める。
理由
一、当事者適格について
(一) 原告適格の欠缺
大阪大学長代行の本件立入禁止措置は、抗告訴訟の対象たる「行政処分その他公権力の行使に当たる行為」でないことは後述のとおりであるが、仮りに、右行為に該るとしても、この行為の相手方は学生であるから同大学の助教授である申立人森本英樹は右行為の取消を求める法律上の利益を有しないこと明白であり、本案訴訟について原告適格を有しない。
(二) 被告適格の欠缺
本件立入禁止措置が仮りに「行政処分その他公権力の行使に当たる行為」であるとしても、処分の取消しの訴えは、処分をした行政庁を被告として提起しなければならないところ(行政事件訴訟法一一条本文)、本件処分をなした行政庁は、大阪大学長(代行)であるから、被申立人国および大阪大学(これはいわゆる官署であつて、行政庁ではない)は本案訴訟につき被告適格を有しない。
二、大阪大学における学内紛争の経過
(一) 大阪大学豊中地区石橋学舎の学生による「封鎖」状況。
大阪大学豊中地区石橋学舎は、別添図面のとおり文学部、法学部、経済学部、理学部、基礎工学部、教養部および社会経済研究所が主要校舎九棟におかれているが、このうち
(1) 文、法、経済学部講義A棟は、昭和四三年一二月四日、
(2) 教養部本館(イ号館)は、昭和四四年一月一八日、
(3) 教養部講義本館(ロ号館)は、同年二月一一日、
(4) 文、法、経済各学部研究棟、社会経済研究所棟は、同年四月一四日、
(5) 理学部研究棟中の部長室は、同年四月二二日、
全学斗争委員会(以下全斗委と称する。)に属する学生らによつてバリケートを以つて封鎖占拠された。
(二) 本年五月二二日以降の深刻な紛争の状況
(1) 五月二二日午後二時半頃全斗委の学生約二〇〇名はヘルメットをかぶり、覆面し、角材(いわゆるゲバ棒等)を携行して教養部二号館を襲撃して封鎖し、更に理学部研究棟の完全封鎖をめざして、当時同研究棟で開催中の理学部教授会にいわゆる大衆団交を強要し、翌二三日午前三時までこれを継続した。右団交中教授と学生間、学生相互間で幾度か混乱と争いを生じたのであるが、なかでも大衆団交を傍聴していた民主青年同盟(以下民青系と称する。)に属する一学生(正木英章)は全斗委の学生から暴行を受け頭蓋骨陥没の重傷を負わしめられたのである。
(2) 五月二三日午前一一時過ぎ頃から残る基礎工学部研究棟に対し、前記同様ヘルメットをかぶり覆面し、角材、敷石等を携えた全斗委の学生二〇〇〜二五〇名が封鎖をめざして、これで同地区全学研究棟の完全封鎖を果たさんとして、押しかけるに至つた。
しかし基礎工学部研究棟には貴重な研究設備、資料が多数存在するので、同学部教職員及び一般学生五〇〇〜六〇〇名はこの封鎖を防止すべくホースで水をまくほかあらゆる手段をつくして侵入防止に努め、かくして両学生グループの攻防は凄絶そのものとなつた。
また右攻防の間において全斗委の学生と構内にいた一般学生、民青系の学生集団との間にも投石、角材、鉄パイプ等による乱斗が展開された。すなわち、あるいは逃げまどう者を追いかけて後から鉄パイプなどを使用して乱打し、あるいは高所から突き落すなどの暴行が行われて負傷者が続出し、殊に一名の学生(金田平夫)が頭蓋骨陥没骨折の重傷を受けたほか、重傷者は数名にのぼつた。
(3) かくして午後七時頃に至つては、全斗委学生側から火炎ビンがかなりの数投げられるといつた状態になり、基礎工学部研究棟にたてこもつていた同学部教授らはこれ以上攻防を繰り返してはさらに負傷者を増加させると判断し、研究棟外にあつた伊藤同学部長代行に機動隊導入を要望し、右要望を受けた学部長代行は同席していた山本学長代行及び他の部局長らにその旨を伝え、午後七時三〇分頃山本学長代行から大阪府警本部に機動隊の出動を要請した。
かくて午後八時三〇分機動隊が同構内に入り、基礎工学部研究棟を襲撃中の全斗委の学生らを漸く排除することができた。
(4) その後全斗委の学生らを中心とした乱斗の再発を防ぐため暫時機動隊の在留を求める一方、前日来の重傷者発生の危険を防ぐため、学長代行は二四日早朝「本日は危険であるから、学生は立ち入らぬよう望みます。」との掲示を行なつたのである。
しかし学生は右掲示にもかかわらず多数構内に進入し、敷石等をはぎとり機動隊員に投石し、また全斗委学生は一〇〇名位集団となつて構内デモを行ない、さらに通行中の教授を見つけては取り囲み、いわゆる吊し上げを行なうなどの行動に出た。そのため基礎工学部大塚斉之助教授は吊し上げを受け、漸く救出され、救急車で運ばれるという事態が発生した。かくてはもはや前記掲示のみでは人命への不測の危険、混乱を避けることはできないことが明らかとなり、同日午後一時頃本件立入禁止措置がとられるに至つたのである。
三、本件立入禁止措置についての学長の権限
大学の学長の権限については、学校教育法五八条三項に「学長は校務を掌り、所属職員を統督する」と規定されておるのみであるが、この規定を根拠に、「校務」又は「職員の統督」に関する限り、それに関する大学の意思決定及び執行については一切学長にその権限があると解すべきではない。「校務を掌る」といい、「職員を統督する」といい、文理上その権限の範囲、内容を確定することとは困難であり、わけても他の機関の権限すなわち、大学にとつてもつとも重視すべき、大学自治との関係を考慮しないでは、その意味、内容を決することはできない。
大学自治とは「学部自治」すなわち「教授会自治」であり、全学的な事項については、全学的な教授会たる実質をもつ「評議会」による自治であることは異論をみないところである。
大学の運営は永年にわたつてきずきあげられてきたこの大学自治に則つた運営されてきているのであつて、現行の各大学関係法令もこのことを当然の前提とし、又は十分考慮して定められているものと解すべきものである。
被申立人大阪大学における運営もまたそうであって、学部固有の重要事項については各学部教授会の決定により、全学的な事項については最終的には評議会の決定によつて、大学の意思が決定され、学長はこの決定を執行しなければならないし、執行することができるのである。
学内で評議会を「最高議決機関」と称しているのもその故である。
大阪大学長代行山本巌(五月二七日学長事務取扱)は、昭和四四年五月二一日開催にかかる大阪大学臨時評議会において全評議員から学長代行に推されたが、その際、「流動的な学内紛争の現状に適切に対処しうるような大巾な権限を学長代行に附与することを評議会が承認するならば学長代行に就任してよい」旨を表明したところ、評議員は全員異議なくこれを承認して山本巌氏を学長代行に選んだものである。
ところで本件立入禁止措置がとられたのは、さきに「学内紛争の経緯」の項において述べたとおり、まさに「不測の危険、混乱を避けるため」にとられた真にやむをえない、適切な措置であつたわけであつて、さきに評議会が承認した範囲内の行為であつていささかもこれを逸脱するものではない。なお、本件立入禁止措置は学長固有の建物管理権限の行使と認めることができるのであつて、この意味ではもとより無権限云々の問題の生ずる余地はない。それが建物管理権限たる一面をもつと同時に他面学校利用関係に影響をもつ性質の行為であることを否定できないとしても前述のように評議会の承認の範囲内の権限行使であるから何ら問題はないわけである。
四、本件立入禁止措置は抗告訴訟の対象たる行政処分その他の公権力の行使に当たる行為ではない。
(一) 本件立入禁止措置は前述の如き経緯によりなされたものであるが、それは庁舎管理権の行使である。
国有財産法五条によれば各省各庁の長はその所管に属する行政財産を管理するものとされ、同法九条一項は、右管理の事務の一部を部局の長に委任することができるものとしている。そして右委任の規定を受けて、文部省所管国有財産取扱規程(文部省訓令昭和三二、七、一)四条は部局長は当該部局に所属する国有財産に関する事務を分掌するものとし、国立学校設置法に規定する国立学校の長はこの部局長に該る(取扱規定二条二項、三項)。
右取扱規程により大阪大学長代行は大阪大学所管の国有財産の管理権限を有するものである。
大阪大学長代行が庁舎管理権に基き、立入禁止、退去要求を求めた理由は、大学(石橋学舎)構内におけるいわゆる外人部隊を含む学生相互間の衝突、学生の教職員、物的施設に対する攻撃等による学内の混乱、人命に対する危険の発生、物的施設の破壊等がすでに生じ、さらに今後も生ずる危険が予想されたからである。
人命に対する危険については既述のとおりであるが、物的施設の破壊状態について言えば、教養部(イ)号館、(ロ)号館、文、法、経済各学部、社会経済研究所の各建物は、出入口をロッカー、机、椅子等で封鎖され、壁はペンキの落書で汚損され、窓ガラスは一面に張紙がされ、建物内部には角材、投石用の石、びん類、火炎びん等の兇器、危険物が搬入され、また基礎工学部建物は投石により南面、西面の窓ガラスは完全に破壊されて仕舞つたいる。
右のような大学施設内における状況に対処して庁舎管理権者である学長代行は、施設の正常な状態を回復、維持すべき責務がある。
このような観点から学長代行は本件告示により学生の立入禁止、立退要求という必要最小限度の措置を講じたのである。
本件立入禁止措置は、右に述べたように学長代行の庁舎管理権に基づくものである。すなわち、それは、国が国の財産を、国の定めた方法によつて管理するにすぎず、特定の人に対する処分たる性質をもともともたないものである。
したがつて、この管理権限の行使について学長代行が国に対する行政責任を問われることはありうるとしても、学生その他の国民との関係で適法、違法の問題を生ずる余地がありえないことは理論上明白なところであるといえよう。この意味で本件立入禁止措置は抗告訴訟の対象たる処分の性質をもたないものである。
(二) 仮に本件立入禁止措置が申請人等主張のように、申請人等の大学利用関係に何らかの制約を伴い、その面において営造物権力の行使たる一面を有するものとしても、次に述べるように本件立入禁止措置は抗告訴訟の対象たる行政処分ということはできない。
国立大学の在学関係は、講学上いわゆる特別権力関係に属するから学長はその利用関係者である学生に対して包括的支配権を有する。
大阪大学においては、右の如き大学管理権に基き、管理規則として、大阪大学通則を定めているが、同通則六条三項によれば、総長は臨時の休業日をその都度定めることができるものとされているのであるから、本件立入禁止措置により休業状態を結果したとしても、このような措置は特別権力関係内部の行為であるから、これをあたかも一般権力関係と同視して抗告訴訟の対象たる処分に属するとすることは誤りであるといわなければならない。
五、本件措置が仮に執行停止の対象となるとしても、執行停止における「回復の困難な損害を避けるために緊急の必要があるとき」とは単に原告の側における状態にのみ着目して判断すべきものではなく、当該行政処分によつて達成しようとする目的、当該行政処分の必要性等を比較考量して相対的に決すべきものと解せられるところ、さきに具体的に指摘した本件立入禁止等の措置の必要性、緊急性にかんがみれば申請人らの主張する執行停止の必要性はとうていこれを認めるに足りないものと言わざるをえない。
なお、申請人らはあたかも全学生の利益を代表しているかの如き主張をなしているが、執行停止は申立人自身の利益に限られ、申請人以外の者の利益を主張することは許されない。
六、本件立入禁止等の措置はその必要性、緊急性にかんがみその適法であることが明らかであり、本件申立は、本案について理由がないことが明らかである。